《短編》家出日和
―ガチャッ…

『―――ッ!』


リビングのドアを開けた俊ちゃんは、

あたしと目が合い思わず足が止まってしまったようだ。



「…どこ行ってたの?」


そんな顔に、笑ってしまいそうで。


ブスッとした顔を向けた俊ちゃんは、何も言わずにあたしに買い物袋を差し出し、

逃げるように自分の部屋へと消えてしまった。


その姿を見送った後、手元の袋の中身に視線を落とすと。


入っていたものを見て、やっぱり笑いが込み上げて来て。


レトルトのお粥のパックに、リンゴに清涼飲料水。


そしてそんな中に、ちょこんと俊ちゃんが大好きなブルーベリー味のガムまであって。


相当ご機嫌ナナメなんだろうな、と。


声を漏らさぬように笑った。


片付けは多分、あたしの仕事になっちゃうんだろうけど。


それもまぁ、今回は許してあげるよ。




またこれで、あたしは俊ちゃんを嫌うことが出来なくなったね。


憎み続けることも、難しくなってしまった。


何で俊ちゃんは、こんな優しさをあたしに向けたんだろう。


昔、あたしがまだ俊ちゃんを好きだった頃。


その頃の気持ちを、不意に思い出してしまった自分が怖かった。


あの頃のことを“初恋”と名付けるなら、今のこの感情は、

一体何なんだろうね。


馬鹿なあたしには、全然わかんないよ。


だって欲しかった優しさをもらったら、

嬉しさよりも戸惑いが大きくなっちゃって。


あたしは、どうすれば良かった?



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