《短編》家出日和
仕方なく電気を消し、セミダブルのベッドに入った。


すでにある俊ちゃんの体の熱の所為で暖められた布団の中に、

ぬくもりさえも感じてしまう。


決して広くはないベッドのなるべく端に体を寄せたけど。


触れ合う場所に、俊ちゃんを感じた。


本当に、昔を思い出しそうで怖い。


俊ちゃんが居れば安心してた、あの頃のことを。


静かなとばりの中で、時計の秒針とあたし達の息遣いが嫌に大きく響いてる気がして。


次第に心臓の音が早くなるのが分かる。



『…なぁ、亜里沙。』


不意に俊ちゃんは、あたしの名前を呼んで。



「ねぇ、俊ちゃん!
あたしの風邪、うつると困るしさ!」


だけどもぉ、あの頃とは違うから。


言葉を並べて体を起こした瞬間、俊ちゃんはあたしの腕を掴んだ。


真っ暗な闇の中でも、あたしを捕える瞳だけは、はっきりとわかる。



『良いよ、別に。』


「―――ッ!」


あたしの腕を掴んだまま同じように体を起こした俊ちゃんは、

そのままあたしを引き寄せ抱きしめて。


その声が、悲しそうに聞こえた。


戸惑うように何も言えずにいるあたしに、俊ちゃんは更に言葉を続けて。



『亜里沙が居ないと困るから。』



ねぇ、俊ちゃん…


それって、どーゆー意味で言ってんの?


家政婦が居ないと困るから?


それとも、別の意味…?


あたしの中にモヤモヤと広がりだしたものを、言葉にすることが出来なくて。


結局また、何も聞けなかった。


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