《短編》家出日和
「来年は、彼女と一緒に見なよ。」



漠然と考えていた“家出”。


卒業して就職するなら、ついでにこの家からも出よう、と。


俊ちゃんの傍から離れよう、と。


半分だけの花火を見つめながら、そんな風に思った。



『…俺に付き合ってくれる物好きなんか居ねぇだろ。』


「…探す気、あるの?」


『ないよ、亜里沙が居る間は。』


「―――ッ!」



じゃあもぉ、あたしが居ない方が良いんじゃん、って。


俊ちゃんの幸せのためにも、自分自身の幸せのためにも。


俊ちゃんが今まで彼女を作らなかったのは、

あたしが居れば全てをまかなうことが出来ていたからだ。


だからダラダラと、ずっとこんな状態だったんだ。


アルコールによって少し火照った体を、心地よい風が冷ませてくれて。


俊ちゃんが短くなった煙草をビールの缶の中に落としたとき、

ジュッとそれが、小さく音を響かせた。


花火の音に掻き消されてしまいそうな、とてもとても小さな音。



「婚期逃すよ?」


『もぉ十分逃してるよ。』



長く長く、一緒に居過ぎたんだね。


気付けば懐古する日々は、どれも俊ちゃんしか居なかった。


俊ちゃんもきっと、あたしと同じだったろうから。


当たり前になりすぎていたことに、慣れて麻痺してしまっただけなんだ。


こんな関係、普通じゃないよ。



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