《短編》家出日和
竹内との約束の一時間前。


時間を気にしながらも、

やっぱりあたしは服装や髪形、メイクが気になってしまう。


おろしたての服を纏い、鏡の前で不安になって。


何度も何度もチェックしてしまう。



『…てか、そんな恰好してどこ行く気?
あんま短いスカート穿いてると、ナンパされるぞ?』



面倒くさそうにコーヒーを口に含み、

広げた新聞越しに聞いてきた俊ちゃんにあたしは、笑顔を向けた。



「大丈夫!
彼氏とデートなんだから!」


きっと、本当に馬鹿みたいに笑ってたと思う。



『亜里沙。』


「え?」


低くあたしの名前を呼んだ俊ちゃんに、不思議に思って顔を向けた。



『…何それ?
お前、男とか居たんだ。』


「―――ッ!」


今までに見たことないような顔した俊ちゃんが、こちらを睨んでいた。


その顔に、得体の知れぬ恐怖さえ抱いて。


ゆっくりと俊ちゃんは新聞を置いて立ち上がる。


一歩、また一歩とこちらに足を進める俊ちゃんに、

無意識にあたしの足は後ずさって。


俊ちゃんが怒っているのであろうことはわかる。


だけど、何に対して怒っているのかがわからない。


何を言えば良いのかもわからない、停止してしまった思考回路。


張り詰める空気が、息遣いさえも許されないのかと思うほどに緊張している。


< 7 / 76 >

この作品をシェア

pagetop