《短編》家出日和
園内には、閉園が近いことを告げる仰げば尊しが流れ始めた。


まだ1時間もあるというのに、何とも気の早い。


そして、あたしを焦らせる物淋しいばかりのメロディー。


ゆっくりと沈んでいく太陽は、最後に世界をオレンジの色に染める。


眩しいばかりの西日に目を細めながら、穏やかな象のあくび姿を見つめた。



自分から家を出たはずなのに、俊ちゃんに見つけてもらいたいだなんて。


虫が良過ぎたのだろうか。


こんな広い街の中で、人間一人を探せって方が難しいのに。


あたしはトコトン馬鹿なようだ。


期待するだけ損だ、って。


もぉずっと前から、わかりきっていたことだったのに。



今日一日で、どれほど俊ちゃんの存在があたしにとって大きなものだったかを、

再認識させられたから。


俊ちゃん一色だったね。


好きだった、って。


気付いたから、家を出てきたのに。


なのに好きだから、あの人のところに帰りたい。


どっちの気持ちが大きいのかなんて、あたしにはわかんないよ。


もっと勉強してれば、ちゃんとわかった?


それとも、俊ちゃんみたいに大人になれば、自然とわかるものなのかな?



ずっと昔、何も考えずに俊ちゃんのことが好きだった頃があった。


だけど今更同じ気持ちになっても、状況なんて全然違うんだもん。



泣きそうで、泣きそうで。


今日一日で、今まで我慢していたもの全てが溢れだしてくる。


俊ちゃんもいない独りぼっちは、すっごく寂しいよ。



< 71 / 76 >

この作品をシェア

pagetop