《短編》家出日和
『亜里沙!』


「―――ッ!」



まさか、って。


だけどこの声は、あの人の声だ。


ゆっくりとあたしは、声のした方に顔を向ける。


そこには、息を切らしてこちらに向かってくる俊ちゃんが居て。


あたしの前まで来て立ち止まり、膝に手をついて肩で息をしていた。


そしてゆっくりと、上目がちにあたしを捕らえて。



「…俊、ちゃん…」


『バカタレ!
ったく、さっさと帰るぞ!』


「―――ッ!」


下からあたしを睨み付ける俊ちゃんの顔が怖くて、

無意識のうちにその視線から逃げるように目を逸らした。



「…あたし、“探せば?”とは言ったけど、“帰る”とは言ってないし。」



どこまであたしは、意地を張っているのだろう。


わかってても、こんな言葉ばかりが口をついて流れ出る。



「何で来たのよ!!」



気を抜けば、もぉ本当に泣き出してしまいそうで。


それを隠すようにあたしは、声を上げた。



『…何わけわかんねぇこと言ってんだよ。
だったら泣きそうな顔してんじゃねぇよ。』


「―――ッ!」



あたしのこと何も知らないくせに、何でこの場所がわかったんだろう、とか、

あたしのこと何とも思ってないくせに、何でこんなこと言うんだろう、とか。


気付いたら、あたたかいものが頬を伝っていて。


徐々に視界がぼやけ始める。


泣いてるんだ、なんて。


気付きたくなかったのに。



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