わたしの魔法使い
その表情は今まで見たどんな朱里ちゃんより悲しげで、声をかけたら泣き出してしまいそうだった。


きっかけになれば……

そう思った僕は、朱里ちゃんを傷つけたのかもしれない。

一番「書きたい」って思ってるのは、きっと朱里ちゃん自身だ。



でも、謝ることはできない。

僕は“知らない”から。



「あ、朱里ちゃん……?」

「……ん?」


すっとあげた顔はいつもと同じ、好奇心いっぱいの黒目がちな目。

いつもと同じ笑顔だった。

でも、その目の中に、何かを決めたような力がある。

何を決めたのか、僕にはわからない。

だけど、今目の前にいる朱里ちゃんは、今までのどんな朱里ちゃんより力強い目で僕を見ている。



これがきっと、本当の朱里ちゃんだ。

よく笑って、好奇心旺盛で、可愛らしいお嬢様。

でも、それだけじゃない。


どんなことも乗り越えていく力を持った、強い子なのかもしれない。


何だか見直した……。



「それ、買うんでしょ?早く買って帰ろう?」


さっきまで朱里ちゃんを引いていた手を、今度は朱里ちゃんが引いている。


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