わたしの魔法使い
本屋を出ると、まだ梅雨が明けたばかりなのに夏の日差しが容赦なく照りつける。


「暑いねー。 」

「………」

「朱里ちゃん?」

「…――颯太さんって、お酒飲める人?」

「…はい?」

「今日は飲もう!」

「…えー!突然何?」


ふふっと笑って、先を歩いていく。

本当に突然だよ。




そりゃあ、男を28年もやってればお酒ぐらい飲めるけど、突然すぎやしない?

でもまあ、飲みたいときもあるよね。

それに、今日は暑いし。


つまみ、何にしようかな?

確かジャガイモとタラコがあるから、それはタラモサラダにするとして…

あとは?

ベーコンがあるから、ホウレン草買ってバター炒めもいいな。

やっぱりつまみは多めにしておかないとね。

あっ、冷やしトマトもおいしいな。



頭の中は、つまみのことでいっぱい。

だから、右手の違和感に気が付くまで、少し時間がかかってしまった。


「…――?!」

スキップをしながら先を歩いていた朱里ちゃんが、僕の右手を握っていた。

本屋で見せた恥ずかしそうな顔はそこにはなく、当たり前のように握っている。




ちょっと!嬉しいじゃない!!



だって、朱里ちゃんの柔らかな手が、僕の手を包んでくれてるんだよ!

それも当たり前のように!

朱里ちゃんがどんな気持ちで手をつないでるかはわからないけど、それでも僕の手を握ってる。

それがうれしい!!


今日はとことん付き合っちゃうよ~。

それと、つまみもおいしいもの、用意するぞ!!



…って考えてる僕は、結構単純なのかもしれない。


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