わたしの魔法使い
会議室に沈黙が落ちる。

ただの会社員ができることなんて限られてる。

警察でも、SPでもないから。

「できる限りでいい。君の…できる限りで…」



そういうと、会長は一通の封筒を出してきた。

「朱里の居場所だ。それと…君にはできるかぎりのことをする。朱里を……朱里を守ってくれ。」

会長はまた頭を下げた。








――で、現在。

目の前にいる里村朱里さんはというと…

顔面蒼白。傘を持つ手も震えている。

そりゃそうだ。

いきなり「里村朱里さん」なんて言えば、誰だって驚くよね。

特に「見つけた」なんて言っちゃって。

社長に見つかったって思うよね。

でも、会長との約束で名乗ることはできない。もちろん、出版社の人間であることも秘密。

そんな中で、僕ができる打開策は…何もない。


うーん…考えろ……

考えろ。颯太。



……

………

あっ。そうか。

「里村朱里さん。僕はね、魔法使いの弟子なんだよ。君に魔法をかけに来たの。」


僕は言った。

あの時、僕に射した光が、「魔法使いの弟子なんだ」と柔らかく微笑みかけてくれたときのことを思い出したから。

もう、忘れているよね?きっと……。



本当はね、全部話してしまいたいんだ。

会長が心配していること。

田中室長が待っていること。

僕のこと。

僕の暗闇に射した、光のこと。

全部話してしまいたい。
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