わたしの魔法使い
朱里を腕の中に抱いて、どれくらいそうしていたんだろう。

朱里の方が泣きたいはずなのに…

父親に見つかって、これからのことを考えると怖いはずなのに、朱里は「逃げない」と言った。

僕がいなくなっても、ここから逃げない。

そう言った。



僕は魔法使いなんかじゃない。

朱里に魔法なんてかけていない。

逃げない強さを手に入れたのは、きっと朱里自身だ。

僕の力じゃない。


僕はただ、朱里のそばにいただけだ。

何もしていないんだよ……


「颯太……苦しい……」

「あ、ごめん……」


朱里に泣いていることを知られたくなくて、慌てて手を離して後ろを向いた。


「颯太って案外泣き虫?」


「――!」



バレてたー!

泣いていたの、バレてますよ!

恥ずかしい……


「颯太……ありがと」


そう言うと、僕の腰をぎゅっと抱きしめてくれた。


朱里、それは違うよ。

僕が君に“ありがとう”って言わなきゃいけないんだ。

それに…“ごめん”も…



何も話さない僕を信じてくれて、ありがとう。

いつも笑ってくれて、ありがとう。

何も話せなくて、ごめん。



「朱里。ごめんね…」


僕はそっと腰に回された腕を外した。




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