わたしの魔法使い
――翌朝


朱里がまだ寝ていることを確認して、僕は家を出た。

季節は夏だけど、早朝の街は少しひんやりしている。

いつもは買い物客で賑わう商店街も、まだ眠ったまま。

行き交う人もいない街を、僕は駆け抜ける。

朱里を驚かせたい。

ただ、その一心で……






「驚くかな……?」


僕の目の前には、真っ赤なミニクーパーが止まっている。

免許を取った18の時に思いきって買った、僕の愛車。

乗り始めて10年。

まだ誰も乗せたことがない。

乗せたいと思ったこともなかった。

車は一人になるための、大切な場所だった。

だけど、初めて朱里を乗せたいと思った。

僕のことを何も知らないのに、それでも僕を好きになってくれた。

そんな朱里だから。


「…久しぶりだな……」


エンジンをかけると、心地良い振動に包まれる。


「よしつ!朱里が起きる前に帰ろう!」


ギアを入れて、まだ眠る街へゆっくりと走り出した。



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