わたしの魔法使い
隣を歩く魔法使いの弟子は、目の前に立たれるより背が高く、華奢に見える。

長く雨に打たれた体は冷え切っていて、時々足元が揺らぐ。

それでも私に負担をかけまいと、踏ん張っている。



それにしても…

魔法使いの弟子って…何?

名前、ないのかな?

私の名前は知っているのに…。


「あの…名前は?いい加減魔法使いの弟子って呼ぶのは疲れます。」

「ああ…颯太…といいます……。」


颯太と名乗った「元魔法使いの弟子」は、力のない笑顔を見せた。



静かな雨の朝。

軽快なゴン太の足音と傘に落ちる雨音、あとは颯太さんの苦しそうな呼吸の音しか聞こえない。

一歩一歩、家へ向かう。

ゆっくりと、ほんの少しずつ。

歩き始めたころは私に負担をかけまいとしていた颯太さんだったが、だんだんと力が抜け始めてる。

「――!危ない!」

歩道のちょっとした段差でも、今の颯太さんには危険みたい。

どれだけの間雨に濡れていたんだろう。

支える体からは、ぬくもりが感じられない。

冷たい手。冷たい体。青白い頬。

ほんの少し前まで、怖いと思っていたのに。

たった数分で、たった数百メートルの距離で、私は颯太さんを信用し始めていた。



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