わたしの魔法使い
この車には、颯太の過去を知っている人がいる。

私より綺麗で、大人の女の人がいる。


そう思うと、一歩が踏み出せない。


立ち止まっている私に気がついたのか、さっきの女の人が車から降りてきた。


「颯太と一緒にいた子よね?」

「……そうですけど……?」

「颯太は?一緒じゃないの?」

「……知りません」


値踏みするような視線が向けられる。

すごく不愉快な視線。


「あなた、いくらで颯太を買ったの?」

「え……?」

「倍の値段、出すわ。いくら?」

「何言って……」

「倍じゃ不満?それならいくら…」


なに言ってるの?

買った……?

いくらで……?

この人、なに言ってるの?

理解ができない。


「あら?違うの?それならそれでいいわ。いくら払えば、颯太を返してもらえる?あなたの言い値を払うわ。」


いくらって……

言い値を払うって……

怖い……

颯太とこの人の関係が怖い。

颯太の過去が怖い。



「あなた、颯太のこと何も知らないの?」

「………」

「知らないみたいね。…それより、こんなところで立ち話も変だから、車に乗ってちょうだい。」


そう言って私を見る目は、有無を言わせない強い目で、私は従うしかなかった。


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