わたしの魔法使い
「……彼女、颯太は商品だって。そう言ってた。それって…本当?」


腕の中で小さく涙を溢す朱里に、何も言えなかった。

いつかは話さなければ。

そう思っていた。

自分は“中埜颯太”で、“創遊社の社員”で、“大学の頃まで、女の人に金で買われてた”最低の過去を持ってる。

いつか言わなければって、思ってた。

だけど、朱里を好きになって、朱里が好きになってくれて、本当の事を話すのが怖くなった。

話したら嫌われるんじゃないか、軽蔑されるんじゃないか。

そう思うと言葉がでなかった。


僕は……卑怯だ……

すべてを隠して朱里と一緒にいた。

隠しきれるわけないのに…


誰かを好きになるなんて、しちゃいけないことだったんだ。

もう、そんなことすら忘れていた。

朱里を好きになったときから……



いつも笑っていて、クルクル表情を変えて、僕の作るものを“おいしい”と残さず食べてくれた。

彼女の書くお話が好きだった。

会長に“千雪”は朱里だと知らされるまで知らなかったけど、彼女の書くお話はいつも、僕に希望と、幸福を与えてくれた。

それに……


たった一度、朱里に会ったことがある。

暗闇の中を歩き続けた僕に、たった一度だけ、ほんの一瞬だけ射した希望の光。

それが朱里だった。



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