わたしの魔法使い
僕の名前しか知らない。

本当にこれでよかったのかな?

本当の自分を隠して朱里の近づいて、朱里を好きになって。

本当にこれでよかったのかな?



「……――何泣いてるのよ?女を利用して生きてきたくせに。」


母さんにそういわれて、初めて自分が泣いていることに気がついた。

女を利用して……

確かに利用してきた。

父さんの残した借金を返すために。

実の母親に売られ、たくさんの女に金で買われて……

まともな青春も、恋もできなかった。

でもやっと、本気で好きになることができたんだ。


朱里に会って、変わることができたんだ。

だから、さよならする前に、自分の言葉で、自分の正体を話そう。

それがきっと、僕にできる唯一の償いだと思うから。


「奏さん。もうこれ以上俺に関わらないでくれ。あの日……初めて女のところへ連れていかれた日から、俺はあんたの息子じゃなくなった。」

「わかってるわよ。そんなこと。それでもね、息子としての颯太を取り戻したいの。」

「断る。これ以上付きまとうなら、警察に行くよ。どうせまだやってるんだろう?」


気がつくと、車は都心のビル街を走っていた。

数ヵ月前まで当たり前に歩いていた町並み。

それが今は、色褪せて、何の魅力も感じない。

朱里がいない街は、こんなにもつまらない色をしてるんだ……



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