わたしの魔法使い
私を見るときは……見るときは………。


「わんっ!」

ゴン太の声が現実に引き戻す。

顔をあげると、颯太さんの潤んだ目と視線がぶつかる。

そうだ。私はあの人から逃げたんだ。

あの人から逃げて、あの人の知らない町に来たんだ。

もう大丈夫なんだ。


でも…

「颯太さん。あなたは一体誰?何で私を知ってるの?」


家に着くまで聞かないでいようと思っていた。

落ち着くまで聞かないでいようと思っていた。

でも、できなかった。

あの人を思い出して。あの人が探し出したのかが知りたい。

あの人が…。


「僕…は…言ったで…しょ?魔法使いの弟子だって…。」


颯太さんの潤んだ目は真剣で、やっぱり吸い込まれそうなほど綺麗だった。

「信じて…いいですね?」

そう聞くと、颯太さんは微かに頷いた。

颯太さんを信じてみよう。

裏切られるのは辛いけど、雨の中、傘も差さないで私を待っていた。

小さな花を差し出した、白く綺麗な手を信じてみよう。



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