わたしの魔法使い
私を守るように歯を剥き出しにして唸るゴン太の前で、突然父が土下座をした。


「――すまなかった……」


は、はいーーー?

いきなり何?!

おじいちゃんの話って、この人のことなのー?


「い…いきなり何なんですか?!」

「朱里。お父さんの話を聞いてやりなさい」

「おじいちゃん?」


おじいちゃんの笑顔からは、なにも読み取れない。

ここに来た意味も、この人の土下座の意味も。

ただいつものように、にこにこと笑うだけ。



「……玄関先で土下座されても困るので、とりあえず入ってください」


唸るゴン太を宥めつつ部屋にあげると、また父は土下座をした。


「…何しに、来たんですか?」


そう問いただしても、顔をあげず、ただひたすら床に顔を向けたまま土下座を続けた。

こんなの、お父さんらしくない。

いつも背筋が真っ直ぐ伸びてて、格好良かった。

お母さんが死んで、仕事が忙しくてなかなか会えなかったけど、いつも真っ直ぐ前だけ見てた。

そのお父さんが今、私の前で土下座を続けてる。


すごく……嫌な気分。


もちろんお父さんがしてきたことを許すつもりはない。

いまでも怖いと思う。

だけど、こんなのお父さんじゃないって言う気持ちもある。



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