わたしの魔法使い
「何しに、来たんですか?」

「……朱里に、謝りたくて。許されることじゃないのはわかってる。だけど……謝りたかったんだ」


そう言ったお父さんの、背中が小さく見えた。

子供の頃、“疲れた”と言って何度もおんぶしてもらった背中。

大きくて、安心できた。

その背中を小さく丸め、娘に謝る姿は、とても悲しく見えた。


「……今更…謝られても……」

「そう…だよな……ただ、怖かったんだ。お前も、お母さんのように失うことを……」


父は静かに語り出した。

何故、私を殴ったのかを。


…父も小説家になりたかった。

でも、才能には恵まれなかった。

その代わり、新人作家を発掘する才能はあったようで、祖父の会社で編集者として働くようになった。

そんな中、新人作家の母と出会い、私が生まれた。

母は本当に才能に恵まれた人だった。

その才能が、父と私から母を奪い取った。

才能に恵まれ、たくさんの小説を書き続けた母は、私たちを残して自らの命を断った。

父にとって作家としての才能は、自分の夢と大切な人を奪い取った憎むべきものになり、同じ道を歩き出した私も、その才能に奪われると思った。


「……お前は違う。そう思っていても、母さんと同じようになってしまうんじゃないかと……怖かったんだ……」



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