わたしの魔法使い
いつか、私も“書けなくなった”と、命を断つかもしれない。

その恐怖心から、暴力を振るった。

「お前を憎い訳じゃない。ただ、お前まで失うかもしれない。それが怖かった」


お父さんはそう言って涙を流した。



私は……やっぱり許せない。

いまだに“怖い”と感じる。

だけど、お父さんにはお父さんの思いがあった。

それだけは理解できた。



「…――たぶん、許すことはできません。この先ずっと。ただ、約束してください。書くことを止めないで。もう二度と…手をあげないで……」

「……すまなかった」

「私はお母さんと違う。書けないからって、死んだりしない。それは約束します。……お父さん……」


お父さんは下げていた頭を床に擦り付いてしまうほど低く、下げた。


久しぶりに“お父さん”って呼んだ気がする。

そう呼べたことが、ほんの少しだけ嬉しかった。





静かな部屋の中にお父さんの啜り泣く声だけが静かに響く。

おじいちゃんを見ると、やっぱり何を考えてるのかわからない、それでも優しい笑顔があった。


……私の周りは、なに考えてるか読み取れない人が多いな。

颯太は…すぐわかるのに……


そんなことを考えて、少し泣きそうになった。



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