わたしの魔法使い
『朱里、“何で名前で呼んでたんだろう?”って思ったでしょ?

それはね、僕はあの人に売られたんだ。中学を卒業すると同時に。

僕の家は小さな本屋をやっていたんだ。

本当に小さな本屋だったけど、父が気に入った本だけを扱う、ちょっと変わった本屋。

その頃はちゃんと“母さん”って呼んでたよ。

普通の家族だったからね。

でも、そんな変わった本屋なんてうまくいくわけなくて…

僕が中学に上がる頃には、借金まみれ。

両親も懸命に返してたよ。

でも、それにも限界があってね。

借金を残したまま、父親が逃げちゃったんだ。“もう無理だ”って。

最初は働いて返してたよ。

僕も一緒になって。

でもね、それにも限界があって、借金は増えるばかり。

そんな時、母親に入知恵した奴がいたんだ。

“息子を売ればいい”って。

幸か不幸か、僕はこの顔でしょ?だから“いい商品になる”って。

初めて売られたのは、中学の卒業式の日。

買ったのは、お金持ちのおばさん。

気持ち悪かったよ。色んなことが初めてで…それなのに、相手はおばさんだよ。

もう最悪以外の何者でもなかった。


何で拒否しなかった?って思うでしょ。

僕はね、マザコンだったんだ。お母さんが大好きで、お母さんの言うことに逆らえない、気の弱い子だったんだ。




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