わたしの魔法使い
幸せな想い出を持って相手を待つ。

そんな贅沢で、ちょっとだけ切ないお話が書きたかった。

その時は、颯太がいなくなるなんて思ってなかったし、待つことがこれだけ辛いこととは思わなかった。



……私、颯太を待ってるのかな?

もう戻ってこないかもしれないのに。



「ゴン太ー!颯太は戻ってこないかもしれないよねー!それでも、いいよね!!」

11歳になったゴン太は、相変わらず元気一杯で、今日も桜の下を元気に歩いている。

時々颯太を思い出すのか寂しそうな顔をするけど、それもほんの一瞬。

すぐに元気よく歩き出す。

そんなゴン太に救われてきた。



ゴン太がいればそれでいい。

悲しい結末で終わった私の初恋は、一生忘れることのできない宝物にすればいい。

雨の日に舞い降りた、魔法使い。

とても綺麗な顔で、左頬にえくぼができる。

天使のような魔法使い。

彼に何もしてあげることはできなかったけど、たくさんの魔法をかけてくれた。

たくさんの笑顔と、美味しい料理と、私に父親と向かい合う力をくれた。

大切な、本当に大切な、私の魔法使い。



そんなことを考えながら歩いていたら、フワッと風が吹いて、桜吹雪が舞った。


その吹雪の向こうに、男の人が立っていた。




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