わたしの魔法使い
「あ……」

「…――久しぶりだね。朱里ちゃん」


桜の木が続く公園に立っていたのは、田中さんだった。

創遊社書籍部室長。

私が“千雪”だと知っている、唯一の人。

大人の雰囲気を持っていて、いつも私を子供扱いをする。

だけど、仕事に関しては厳しくて、おじいちゃん以上にダメだしが多い人。


「田中さん。どうしたんですか?こんなところで」

「んー。朱里ちゃんの部屋に行ったらいなかったからね。散歩かな?って思って。」

「……あれ、ダメですか?」


あれ……

やっと書き上げた、お話。

つい数日前に田中さんに渡したばかりだった。

結構自信あったんだけど……


そんな気持ちが顔に出ていたのか、田中さんは苦笑いを浮かべていた。


「あれは半分だけ読んだ。だけど、いいんじゃないかな?朱里ちゃんらしくて。」

「よかったー!田中さんが来たから、ダメだしされるかと思ってました。……?じゃあ…何で?」

「じゃあ、何で?……か。何でだと思う?」


何でだと思う?……知りません。

田中さんが来るときは、大抵ダメ出しか、構成か。

仕事関係でしか会わない。

あとはおじいちゃんのお供か……

だから、“何でだと思う?”って言われても見当がつかない。



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