わたしの魔法使い
いつまでも答えが出せない私に、田中さんは笑って言った。


「朱里ちゃんを口説きに来たんだよ」


と…


「は、はいー?」

「そんなに驚かなくても。」
「いやっ。だって……急にそんなこと…」

「急じゃないよ。朱里ちゃんが気づかなかっただけ」

そう言って、田中さんは笑っていた。

気づかなかっただけ……?

だって、田中さんに会うときはいつだって仕事がらみで、しかも子供扱いされてて。

それに、いつも綺麗な女の人を連れてた。

私に興味なんてない。

そう思っていた。


「朱里ちゃん。中埜くんとの事は会長から聞いてる。それでも、君が好きだ。」

「う……うそ……………」

「嘘言ってどうするの?嘘をつくメリットは僕にはない。」

そう言う田中さんの目は真剣で、私の心に突き刺さる。

きっと、普通なら嬉しいと思えると思う。

田中さんは、颯太とは違う、大人の綺麗さがあるから。

こんな人に“好きだ”と言われたら……

きっと嬉しいと思う。

颯太に会っていなかったら、私もそう思うから。

だけど、私の中には颯太がいて、田中さんの言葉を受け入れることができない。

そんな私の心を見透かすように、田中さんは言葉を紡いだ。



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