わたしの魔法使い
「今すぐに答えが欲しいとは思っていないよ。ただね、あれから半年が経って、まだ中埜君から連絡が来ないだろう?もう、踏ん切りをつける頃じゃないかな?無理に忘れろとは言わない。僕が忘れさせてみせるから……」


そう言って、田中さんは私を抱き寄せた。


僕が忘れさせてみせる。

田中さんはそう言ってくれた。

淡いピンクの吹雪の中、田中さんに抱き寄せられた私は、他人から見れば幸せなんだろう。

このまま、颯太を忘れることができたら……

田中さんを好きになることができたら、きっと私は幸せになれる。

田中さんは颯太と違う。

きっと、手紙だけを残していなくなったりしない。

だから私は……


「今すぐ忘れることはできません。それでもいいですか?」


そう答えた。




私はズルイ。

田中さんの気持ちを受け入れるような顔をして、本当は寂しいだけ。

颯太を忘れられなくて、でも一人でいるのは嫌で。

そんなときにされた告白に、私はすがりついた。


「わかってる……」


そう言って抱き締めてくれる田中さんは本当に大人で、この人のためにも、早く颯太を忘れなきゃ…そう思った。




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