わたしの魔法使い
とりあえず、今手を離して大丈夫なのはゴン太。

このマンションの規約には「犬などの動物は抱えて移動」とある。

だけど、今は緊急事態。

規約、守ってたら病人が倒れちゃう。

――ということで、

「ゴン太!ついてきて!」

「わんっ!」

ゴン太の返事はいつも楽しそうで、こんな状況なのについ笑ってしまう。


私はゴン太のリードを離すと、オートロックのテンキーを押した。


「颯太さん。家に入ったらとりあえず脱いでください!着替えは私の服で我慢して!」

エントランスを抜けながら、私は颯太さんの顔を見上げた。

相変わらず青ざめた顔。

潤んだ虚ろな目。

茶色い髪からは雨の滴が落ちる。

私の言葉に微かに頷くだけで、もう言葉も出ない。

歩くのも辛そう。


よかった……。部屋が1階で…。


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