わたしの魔法使い
こんなことなら、颯太を好きにならなければよかった。

田中さんの気持ち、受け入れなければよかった。

そしたら、誰も傷つかなかった。


泣きたいのに、涙が出ない。


私はゆっくりと立ち上がると、ベランダへ出た。

春の日差しが射すベランダは暖かくて、見上げると青空がどこまでも続いている。

きっと颯太もどこかでこの青空を見ている。


「私の魔法使いさん…今、どこにいるの?誰に魔法をかけてるの?」


そう呟いたら、一粒だけ涙が零れた。




どれくらいベランダで空を見上げていたんだろう?

いつの間にか足元にはゴン太がいて、気持ち良さそうに眠っていた。

茶色かった毛は白くなり、最近では寝てる時間が長くなった。

颯太がいた頃は、毎日のようにしていたプロレスも、相手がいないからか全くしなくなった。


私はゴン太のとなりに腰を下ろすと、その少し固い頭を撫でた。


「ゴン太も会いたいよね……」


気持ち良さそうにうっすらと目を開けたゴン太は、またゆっくりと目を閉じた。

いつか……そう遠くないいつか、ゴン太も私から去っていく。

私はそれに耐えられるのかな……?



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