わたしの魔法使い
朱里への手紙を会長に託した後、僕は以前住んでいた部屋も引き払って旅に出た。

あのクーパーに乗って…

行き先なんて決めないで、気の向くままにハンドルを切る。

朱里のことを思い出さないように、ギュッとハンドルを握って。


それでも何度も朱里を思い出した。

クルクル変わる表情や、何でも美味しそうに食べる横顔、抱き締めたときの温もり……

思い出す度に、胸がギュッと締め付けられた。

会いたい……

何度もそう思った。

一目だけでも……

そう思った。

だけど、できなかった。

会ってしまったら、また朱里を傷つけてしまう。

悲しませてしまう。

もう二度と朱里のあんな表情を見たくない。

その気持ちが朱里から距離をとる僕を支えていた。




1年近く旅を続け、やっと僕は自分がやりたいと思えることに出会えた。



僕の父親は本屋だった。

自分の気に入った本だけしか扱わない、変わった本屋。

新刊もベストセラーも、雑誌も扱わない。

だけど、ジャンルにこだわらず、“面白い”と思える本だけを扱っていた。

旅の途中、何度も本屋に立ち寄ったけど、父親の本屋のような店はひとつもなかった。



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