わたしの魔法使い
“忘れてほしい”


心からそう思っていた。

思っていたつもりだった。


でも、やっぱり忘れてほしくない。



幸せになってもらいたい。

だけど、本当は僕が幸せにしたかった……




『…――中埜君?』

「あ、すいません……じゃあ、あとでお願いします」


そう言って電話を切ったけど、


「どんな顔していけばいいんだよー!」


室長が朱里と付き合ってるって知ってたら、相談しなかったかもしれない……

いや、知ってても相談しただろうな。

朱里のこと、“すべて”知ってるのは室長だから。




いろんな噂があるけど、室長はたぶん、朱里を大事にしてくれる。

きっと朱里は、幸せになれる。


僕のことなんて忘れて、きっと幸せになれる。


それでいい……


そう……思おう………



久しぶりのスーツに袖を通すと、室長との待ち合わせに間に合うように家を出た。




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