わたしの魔法使い
高い背。

あの頃より少し伸びた茶色の髪の毛。

ゆっくりと振り返ったその左頬には、キュッとえくぼがあった。




忘れたくても忘れることができなかった。

あんなに探しても、誰も見つけることができなかった。

その人が目の前にいる。


「…――颯太……」

「あら?お兄ちゃんと知り合い?……あらあら」



目が熱くなる。

目の前が滲んでよく見えない。


おばさんは驚いたようにハンカチを差し出してくれる。

それを受け取って涙を拭くけど、次々溢れてきて颯太がよく見えない。


本当は今すぐ駆け出したい。

あの腕の中に飛び込みたい。

だけど、足が固まったように動かない。



それは、スローモーションを見ているようだった。

私の視線に気がついたのか、颯太の視線が上がる。

窓の外に立つ私に気がついたのか、とても驚いた顔をした。

“人って本当に驚くと、こんな顔になるよね”ってくらい驚いた顔をした。


「…中、入りましょう?」


おばさんに促され、一歩足を踏み出す。

手の届くところに颯太がいる。

それが嬉しくて、涙が止まらなかった。



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