わたしの魔法使い
バスタオルをつかむと、玄関に向かって投げた。

「と、とりあえずそれで拭いてください!今着替えとお風呂準備します!」


投げたバスタオルは






パサッ






おしいっ!玄関まで届かず!



ってな場合じゃない!

「ゴン太!その人にバスタオル持っていって!そう!タ・オ・ル!」


憐れなゴン太。びしょ濡れのままコキ使われます。

ゴン太のお利口なところは、私の言うことを聞いてくれること。

こんな無理なお願いもしっかり聞いてくれる。

トコトコと玄関を上がり、タオルを引っ張る気配を背中に感じながら、大きめのスウェットを探しだした。

「次はお風呂だね。」


振り返ると、ゴン太からタオルを受け取った颯太さんがじっとこちらを見ていた。

「なっ何ですか!」

「いえ…お利口さんだと……思って……」

そういうと、ゆっくりと体を拭き始めた。




お利口って…



お利口って……




…――私?


「やだー!お利口だなんて!そんなー!…って、やっぱり違う?」

はい。すいません…

ゴン太の事ですよね。

わかってますよ……


わかってるんだけど…

わかっちゃいるけどやめられない♪なんちゃって♪



私がそんなことを考えていたら、背後で物音がした。




――…ドサッ




「…――ドサッ?」



振り返ると、タオルで拭いていた颯太さんがいない。
いや。いないんじゃない。



「――!倒れてるー!」


スッゴイ反省!スッゴイ後悔!

私があんな…あんなふざけたこと考えてたから。

出会ったばかりの、しかも雨でびしょ濡れの人を放置したから…。


倒れて荒い呼吸をする颯太さんの周りを、びしょ濡れのゴン太が歩き回る。
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