わたしの魔法使い
朱里……

何でここに来た?

田中さんと付き合ってるって……

なのに、何でここに?


朱里を探しながら、僕の頭の中は疑問だらけだった。

いつか会えたらいい。

そう思って、隣町に店を出した。

それがこんなに早く叶うなんて……



角を曲がると、朱里の小さな背中が見えた。

少し震えて見えるのは気のせいだろうか?


「…――朱里!」


呼び掛けると、ビクッと一瞬だけ歩きを止め、それでも何かを振り切るように歩いていく。


「朱里!待って!」


今ここで朱里を止めなければ、きっと会えなくなる。

そう思うと走る足に力が入る。

会いたかった。

例え室長と幸せであっても……

朱里に会いたかった。



「…やっと追い付いた……」


朱里のそばに立つと、やっと歩みを緩めてくれた。

だけど、その肩は小さく震えていて、泣いているのがわかる。

それでもまだ、僕から逃げるように歩こうとする。


「な…なん……で…逃げるの……?」


久しぶりに思いっきり走ったから、息が切れる。

それでも、もう朱里を離したくなくて腕を掴んだ。



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