わたしの魔法使い
腕を掴まれて振り返った朱里の目には、涙が溢れていた。


「ねぇ、朱里……どうして逃げるの?」

「……離して………」

「朱里……」

「…――住所だけ渡されて、来てみたら颯太がいて…それが嬉しくて……でも、颯太には迷惑だったみたいだから……」

「……朱里…………」


何も言えなかった。

迷惑って?

誰が?僕が?

勝手な思い込みだ。

僕は、朱里に会いたかった。

窓の外に朱里がいて本当に驚いたけど、すごく嬉しかった。

それを伝えなきゃ。

会いたかった。

それを伝えなきゃいけない。



「店、開けたままだから……とりあえず、行こう?」


僕は朱里の腕を掴んだまま、店への道を戻り始めた。

何を話していいかわからない。

お互いに黙ったまま、歩き続けた。



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