わたしの魔法使い
店に戻ると、さっきまでいたお客さんたちは帰ったあとだった。

レジに1通のメモを残して……

『颯太くん。明日ね』

そう書いてあった。

明日……か。

色々聞かれそうだよ……


振り返ると、朱里はまだ店の入り口に立っていて、入るのをためらっているようだった。


「…誰もいないから。とりあえず入って」


朱里の腕をゆっくりと引き、ソファに座らせると、またポロポロと涙を溢した。

本当は今すぐ抱き締めたい。

だけど、それを許されないと思う自分がいる。

あんなに汚れてる自分が、こんなに純粋な朱里を抱き締めるなんて、しちゃいけないと思う。


こういう時って、どうしたらいいんだろう?


「…――元気…だった?」

「……ん。颯太は?」


まだ、“颯太”って呼んでくれるんだ。

そんな些細なことが嬉しい。


「ご覧の通り……」


また落ちる沈黙。

ホント、何話していいかわかんない!

あんな風に朱里を傷つけて、それでも会いに来てくれて。

そんな朱里に何を言えばいい?


「…――ここ、誰に聞いてきたの?……やっぱり、田中室長?」


朱里の肩がビクッと震える。

聞いちゃいけないこと…だったのかな?


「…そう……田中さんが……」

「そうか……付き合ってるんだってね。よかったよ………」


良くないよ……

本当は良くない。

僕に嫉妬する資格なんてない。

朱里に“サヨナラ”と告げたのは僕だから。

今さら、どの面下げて嫉妬ができるのか。





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