わたしの魔法使い
「…――田中さんとは……終わったの……」

……え?

今、“終わった”って言った?


室長に会ったのは、確か半年前。

仕入れ先の問屋のことで会って、そのときは確かに付き合ってるって言っていた。

あのときの室長、悔しいくらい幸せそうな顔してたのに。


「終わったって……いつ?」

「3日前。……フラれちゃったの。私……」


そういう朱里は少しも寂しそうじゃなくて、どちらかと言えば、スッキリした顔をしていた。


「半年前のことだけど、室長、すごい幸せそうな顔してたよ?」

「そう……でも、フラれたの。……颯太を忘れられなかった、私が悪いの……」


僕を忘れられなかった……?

こんな僕を……

……何て言えばいいんだろう?

忘れて…そう手紙に書いたのに……

僕のことなんて忘れて、幸せになって欲しかった。

それなのに“忘れられなかった”だなんて…

僕はまだ朱里を苦しめ続けている。

ここに店なんて出さなければよかったのかもしれない。


「…――また」

「ん……?」

「また百面相……変わらないね」


そう言って涙を拭った。


「…颯太が好き……どんな颯太でも、好きなの……」

「朱里……」


朱里の笑顔が心に刺さる。

“好き”

その言葉が今は痛い。



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