わたしの魔法使い
僕じゃ朱里を幸せにできない。

あの時“出ていって”と言った朱里を思い出す。

あの時抱き締めた朱里の温もりも、朱里の涙もすべて……

もう一度抱き締めることができたら……

何度もそう思った。

だけど、僕には朱里を幸せにすることなんてできない。


「…――迷惑…」

「え?」

「迷惑…だったかな……?ここに来たこと……」


迷惑なわけない。

会いたくて、でも会いに行けないから。

未練があるから。

だから隣町なんて微妙な距離にいる。


でも、それは言えない。

朱里のために……

朱里の幸せのために……


「…ごめん……」


それしか言えなかった。

言いたいことはたくさんあるのに、言葉にしたら今度は僕が泣いてしまいそうで。


「…そう……だよね………ごめんね。」

もう一度涙をぬぐうと、朱里は笑顔で立ち上がった。

胸が苦しい……

自分に嘘をつくって、こんなに辛いんだ。


そんなことを思っていたら、自然と手が動いて……


「きゃっ」


朱里を抱き締めていた。



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