わたしの魔法使い
店の奥は颯太の部屋になっているみたいだけど……


「何もない……」


小さなキッチンと、冷蔵庫。

それとベッドがあるだけ。

驚くほど何もない。


「朱里の部屋より何もないでしょ。昼間はほとんど店にいるから、ここは本当に寝るだけの場所」


そう言って、冷蔵庫の中を確認していた。


「何か手伝おうか?」


颯太が出ていってから、少しずつだけど、料理をするようになった。

まだまだ下手だけど……


「大丈夫。それより…ゴン太は?元気?」

「元気だよ。もうね13才になったの。…颯太が出ていったすぐは元気なかったけど、今は元気。」

「そうか。元気かー。会いたいな」

「会いに来て!ゴン太も喜ぶから!」


野菜を切る手を止めて、懐かしそうに笑う。


ちゃんとゴン太のことも覚えていてくれたんだ。


その笑顔が嬉しかった。


「颯太は出ていってから、どうしてたの?」

「僕?会社辞めて、車でウロウロしてたよ。気の向くまま車走らせて」

「…楽しかった?」

「うん。楽しかった。でもね……」

「でも?」

「……朱里のこと考えてばかりだった」


そう言って抱き締めてくれた。


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