わたしの魔法使い
それに、颯太の前なら百面相してもいい気がする。

無理に大人ぶったりする必要、ない。

初めて会ったときから、私は私のままで、無理に作った私じゃないから。


「…――ごちそうさま!」

「お粗末様でした。相変わらず美味しそうに食べたねー」


だって美味しいんだもん。

颯太の作ったご飯って。



でもね、悔しいから“美味しかった”って言ってやらない!

きっと、言わなくても颯太はわかってる。

“美味しかった”って思ってること。

子供と一緒で、何でも顔に出ちゃうから。



「…――ねえ、朱里。ひとつ……聞いてもいい?」

「何?」


空のお皿を流しに入れた颯太の声は、さっきの楽しそうなものとは違う、少し強ばった声だった。


「田中……室長と付き合ってたんでしょ?」

「うん……」

「どれくらい…付き合ってたの?」

「…1年……くらいかな?」

「そう…………」



沈黙が落ちる。

颯太の洗う、食器の触れあう音だけが響く。


何が聞きたいの?

何が知りたいの?




颯太の背中が、傷ついてるように見えた。




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