わたしの魔法使い
カチャカチャと食器が触れあう音が響く。

ほんっとに恥ずかしい……

室長に嫉妬して、朱里を困らせてるなんて。



「…――してないよ。」


微かに朱里の声が聞こえた。

「颯太としか……」




ん?待てよ?

今、“颯太としか”って言ったよね?

それって……まさか……


「朱里、僕以外とキスって……」

「したことないの!」


赤い顔をして俯く朱里がすごく可愛くて、ギュって抱き締めたくて、急いで水道を止めた。

だって、こんな可愛い子、いる?

真っ赤な顔して“僕以外としたことない”って言ってくれる子が、1年も他の人と付き合ってたのに、キスもしないで待っててくれたんだよ?

奇跡だよ!

奇跡としか言いようがないよ!


あんな風に別れて、戻ってくるって保証もないし……

それでも待っててくれたって、もう奇跡でしょ?!



「朱里!」


赤い顔を俯かせて座る朱里を、ギュッと腕の中に包み込む。

腕の中で小さくなる朱里の鼓動が聞こえる。


「僕ね、すごい幸せ。朱里が待っててくれたこと、初めてのキスが僕だったこと。すっごい、幸せ」



そう。

これ以上幸せなことなんて、ないのかもしれない。




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