わたしの魔法使い
朱里の引き留めるような声が聞こえた気がした。

だけど、僕は何も聞こえなかったようにドアを閉めた。


僕の過去は消しようがない。

たとえそれが不可抗力だったとしても……

それを言われると痛い。

やっぱり……気にしてたんだ……


過去もすべてを受け入れて、それでも好きになってくれた。

そう思っていたのは、僕だけだった。


「もう……ダメなのかな」

「何がダメなのかしら?」


柔らかい声に振り返ると、そこには常連の落合さんが微笑んでいた。

朱里が店に来てくれたあの日、店まで案内してくれたのが落合さんだった。



「落合さん……」

「どうかしたの?朝から暗い顔しちゃって」

「いえ……そんなに暗い顔、してますか?」

「してるわよ。彼女と何かあった?」


……鋭いな……

何かあったどころじゃないよ……

だけど、話せないよ……

僕の些細な嫉妬のせいで、大きなすれ違いになっちゃった…なんて……


「本当に何もないですよ!」

ちからこぶをつくっておどけてみるけど、落合さんの目が鋭い。

すべてを見透かされそうで、僕は慌てて目をそらした。



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