わたしの魔法使い
じゃんけんグリコの魔法は偉大だ。

あれだけ上るのが嫌になった階段も、残りわずかになっている。

見下ろせば今上がってきた階段があって、見晴らしは悪くない。


それどころか、街が一望できる。


「…――すげー……」

「でしょ?階段上った甲斐があったでしょ?」


いたずらっぽく朱里ちゃんは笑うと、数段降りて僕のとなりに並んだ。


「そういえば、さっきの質問の答え。まだだったよね。…私の幸せなときは、本を読んでるときと、ゴン太といるとき。それと……」

「それと?」

「それと、見晴らしのいい場所で、あれこれ考えること」


朱里ちゃんは恥ずかしそうに笑うと、先に上っていってしまった。


……あれこれ……ねえ……

それはお話の事なのかな?

知りたい!

だけど、朱里ちゃんが話してくれるまで、僕は待つよ。

朱里ちゃんが僕を信頼して、作家であることを話したくなるまで、僕は待つ。

それでも……“千雪”の新作が読みたい。

かわいいんだよね。“千雪”のお話に出てくる女の子って。

みんな全力で恋をして、傷ついて、それでもまた恋をして。

目の前の朱里ちゃんもそうやって恋、してきたのかな?

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