マスカケ線に願いを
そんな会話をしているところに、エプロン姿の男の人が近づいてきた。
「柚紀」
「あ、慎吾」
ユズと挨拶を交わす。慎吾と呼ばれた男の人は私を見てにやりと笑った。
「彼女?」
「杏奈、紹介する。こいつはこの店のオーナーの霜山慎吾。慎吾、同じ事務所の大河原杏奈」
霜山さんは目を見張った。
「同じ事務所ってことは、こんなに若いのに弁護士なの?」
「いえ、司法書士なんです」
「へえ! とにかく、たくさん食っていってな」
霜山さんは笑顔で店の奥に消えていった。
「若いのに、オーナーなんだ。霜山さんも法学とってたの?」
ユズを見ると、ユズは顔をしかめている。
「え、何?」
「慎吾に興味ある?」
私はユズをじっと見つめる。
「……やきもち?」
私はふふっと笑った。
「やきもち焼きの男は嫌われるよ」
ユズは面白くなさそうに、口を尖らせた。
「杏奈、俺にはなびいてくれないのに、他の男に興味あるなんて悔しいだろうが」
「心配しないで、今一番近くにいるのはユズだから」
実際の距離じゃない、心の距離だ。
私の言葉に、ユズが硬直する。そして、片手で顔を覆った。