マスカケ線に願いを



「あれ、蓬弁護士じゃないですか」

 被害状況を説明し終わり、警察を後にしようとしたとき、声をかけられた。

「あ、田中刑事」

 振り返ったユズが、挨拶をした。私も軽く頭を下げる。
 田中刑事と呼ばれたユズと同じくらいの男の人は、私を見て、不思議そうに首をかしげた。

「今日はどうしたんですか?」
「ああ、杏奈がストーカーに遭ったんだ」
「それは……。それで、こちらは蓬弁護士の彼女?」

 ユズは苦笑した。

「俺はそうなりたいと思ってるんだけど、なかなかうんと言ってくれなくてな」
「そ、そんなこと言わなくていい」

 真っ赤になる私に、田中刑事は目を丸くした。

「蓬弁護士でも落とせない女性がいるんですね」
「杏奈は強者でね。俺が入る隙を与えてくれない」
「ユズっ」

 もう、そんなこと言わなくても良いのに。
 ユズは笑っている。

「でも、彼女になる日は近いんじゃないかとも思ってる」
「そうですか、がんばってくださいね」

 笑いながら田中刑事はその場を後にした。
 私は恥ずかしさから、口を尖らせた。

「今の何?」
「何が」
「もういい」

 むっとする私に、ユズはくすくす笑うと、私の手をとった。
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