マスカケ線に願いを
「杏奈」
「?」
「デートしよう」
私は目を丸くする。
「今から?」
「そう。映画でもどうだ?」
映画……そういえば、長いこと観てないな。
「まあ、そうやって杏奈との距離を縮めようって作戦なんだけど」
秘密めいたことを言うかのように呟くユズが、可愛い。
「いいよ」
「本当か?」
ユズが驚いたように顔を輝かせた。
「うん」
「じゃあ、行くか」
にっこりと笑うユズの隣を、私は歩く。
私に近づきたいと思っているユズ。
私も、ユズと一緒にいるのが楽しい。
もしかしたら、ユズは私のことを知るにつれて、飽きていくのかもしれない。
他の人達と同じように、私から離れていくのかもしれない。
それでも、ほんの少しだけ、ユズと一緒にいたいと思ってしまう心に、素直になってみようかと思った。