マスカケ線に願いを

「杏奈」
「?」
「デートしよう」

 私は目を丸くする。

「今から?」
「そう。映画でもどうだ?」

 映画……そういえば、長いこと観てないな。

「まあ、そうやって杏奈との距離を縮めようって作戦なんだけど」

 秘密めいたことを言うかのように呟くユズが、可愛い。

「いいよ」
「本当か?」

 ユズが驚いたように顔を輝かせた。

「うん」
「じゃあ、行くか」

 にっこりと笑うユズの隣を、私は歩く。

 私に近づきたいと思っているユズ。
 私も、ユズと一緒にいるのが楽しい。

 もしかしたら、ユズは私のことを知るにつれて、飽きていくのかもしれない。
 他の人達と同じように、私から離れていくのかもしれない。

 それでも、ほんの少しだけ、ユズと一緒にいたいと思ってしまう心に、素直になってみようかと思った。








< 103 / 261 >

この作品をシェア

pagetop