マスカケ線に願いを
杏奈の迷い
近くの映画館に来た私達。
「映画なんて、久しぶりだな」
「私も」
こうやって一緒に歩いていると、なんだか学生時代に戻ったような、照れくさい気分になる。
ちらりと私を見たユズが、そっと左手を差し出してきた。
意図を悟った私は、少しだけ迷ったけど、その手をとった。
「他の人にはどう見えてるんだろうな」
「いい年をして、手なんかつないでる! じゃないかな」
ユズは苦笑して、私を見た。
「杏奈も大概可愛くないな」
「可愛くないなら、なんで一緒にいるの?」
私も笑う。ユズは空いてる手で私の額を突く。
「そういうとこも好きだから」
そんなことを言うから、私は赤面した。
思えば、今まで付き合ってきた人達は、私に対してこんなふうには接してこなかった。しっかりしている私を隣に並べて、見世物のように扱っていた気がする。
なんでも器用にこなす私を、一人にして、自分勝手に歩いてたような気がする。
ユズみたいに、私を子ども扱いする人は、初めてだった。
「さて、どの映画観るかな」
「ロマンスとかそういうのは苦手」
「俺も」
そして、ふと気づいた。
「……私、男の人と一緒に映画観るの初めて」
ユズは驚いたように私を見た。