マスカケ線に願いを
「それ、本気で言ってる?」
「うん。今気づいた」
ユズがふっと笑って、
「それじゃあ俺が杏奈の初めてだな」
耳元でそう囁いた。
私は顔をしかめる。
「ユズが言うと違う意味に聞こえる」
「気のせいだ。あ、あれなんてどうだ?」
ユズが指差したのはファンタジーアクションムービー。
「うん、面白そう」
そしてチケットを買いに、窓口に行く。
「大人二人」
またユズが代金を払うと、受付の人はにっこり笑って、代金を返してきた。
「今日はカップルデーとなりますので、半額ですよ」
「あ、そうなんだ?」
にこっと笑ったユズが返された代金を受け取った。そして意味ありげに私を見る。
カップルに見えているという事実が、照れくさくて、嬉しかった。
「今日は、ありがとう」
「おう」
マンションの前で、送ってくれたユズにお礼を言う。結局、晩御飯までご馳走になってしまった。
すっかり日は落ち、辺りには人もいなかった。
「一人で寝られるか?」
「うん、大丈夫。ユズのおかげで随分元気になった」
「そっか、それはよかった」
にっこり笑うユズは、何か言いたげに私を見ている。