マスカケ線に願いを

「どうしたの?」
「いや……」

 躊躇うユズが、らしくないと思う。

「気になる」
「あー……」

 ユズは顎に手を当てて、小さな声で呟いた。

「キスしたいとか言ったら、杏奈は怒るだろうなって思って」
「…………」

 ユズの言葉に、私は赤面した。


 恋愛初心者の女の子というわけではないのに。
 キスくらい、何度もしたことがあるのに。

 相手がユズなせいか、照れてしまう。

 でも、嫌じゃ、なかった。


 小さくうなずいて、私はユズを見た。
 ユズが、すっと真剣な顔になる。そして、そっと私に近づいてきた。

「杏奈、好きだ」

 そう言って、私の唇をふさいだ。


 ねえ、私の手のマスカケ線。
 私は、まだ一人で立っていられてる?

 私、この人が、好き。
 だけど、一緒にいるのが怖い。

 私は、この人とずっと一緒にいられるの?
 それとも、この人も私を置いていく?

 ねえ、教えてよ、私の手のマスカケ線……。


 ユズ、お願いだから、私を揺さぶらないで。
 私は、弱くなりたくないの。

 傷つきたくなんか、ないの。


< 106 / 261 >

この作品をシェア

pagetop