マスカケ線に願いを



 どれくらい、唇を合わせていただろう。
 一瞬のような気もしたし、随分長い時間だった気もした。

 はっとしたときには、ユズはそっと私から離れていた。

「杏奈が付き合ってくれるって言うまで待とうと思ったんだけどな……参った」
「あ……ごめん」

 照れたように言うユズに、私はうつむいた。

「謝るなよ。まだ、杏奈の気持ちは決まってないんだろ?」
「……うん」

 もしかしたらユズは、私の心なんてお見通しなのかもしれない。

 頑なに彼を拒んでいるくせに、弱くなった瞬間彼を受け入れる、計算高くて卑怯な私の心を。

 これは、私の弱さ。
 いつも強く凛と生きる私の、しっかりしていると、完璧だと称されている私の弱さ。

 ユズ、お願い。
 私に貴方を信じさせて。

 私は、貴方に心を揺さぶられてるの。

 それとも、いつか私を傷つけるくらいなら、これ以上私を揺さぶらないで。

 私のことをすぐに諦めて――……。


「ユズ、いつでも、放り出していいからね」
「ん?」
「私を守る権利」

 私の言葉に、ユズは笑った。

「死んでも放り出してやらねぇ」
「……」
「杏奈のこと、絶対落としてやる」

 ぽかんと、私はユズを見た。
 ユズはくすくす笑って、私の頭をなでる。

「さっさと、諦めろ。俺は結構しつこいぞ」

 どうしても、ユズは私と一緒にいたいらしい。
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