マスカケ線に願いを

「大河原さん」
「え、あっ、蓬弁護士」

 階段の近くで話していたから、通りかかったユズに声をかけられた。

「おはよう」
「おはようございます」

 仕事場ではきちんと敬語を使わなくちゃ。

「そちらは、お友達?」
「あ、岩山小夜さんです。小夜さんがストーカーのこと、久島弁護士に教えてくれたんですよ」

 小夜さんは挙動不審になりながら、ユズを見ている。
 確かに、ユズはオーラがある人だから、ちょっと圧倒されるかもしれない。
 私の言葉を聞いたユズが、小夜さんに笑いかけた。

「それなら、俺からもお礼を言わなくちゃいけないな」
「え!」
「俺に大河原さんを守らせてくれてありがとう」
「ちょ、ユ、蓬弁護士っ」

 そんなことを言ったら、私達が親密なことをカミングアウトしているようなものだ。
 でも、もう随分噂されているし、仕方がないか……。

「やっぱり、杏奈ちゃんと蓬弁護士って、仲良いんでしょ?」

 小夜さんがからかうように私を見た。

「あ、えっと……」
「待って、岩山さん」
「はい?」

 ユズは人差し指を口に当てて、微笑んだ。

「俺が杏奈に言い寄ってるんだ。だから、このことは秘密」

 私は恥ずかしくなってうつむいた。
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