マスカケ線に願いを


 特大のため息をつきながらデスクに戻ると、不気味なぐらい陰口が聞こえてこない。
 嵐の前の静けさのようにも思えて、私は再びため息をついた。

「どうしたの?」
「え」

 隣のデスクの金田君が、不思議そうに私を見ていた。

「大河原さん、元気ないよ」

 金田君は、私と同じ時期にこの事務所にやってきた。男の先輩達に可愛がられてる。愛想のない私と違って、愛嬌のある金田君。

「そうかな?」

 元気がない自覚は山ほどある。でも、弱音を吐きたくないし、弱い姿を誰かに見られたくない。

「ちょっと疲れてるだけよ」
「そう?」

 書類作成に取り掛かると断って、私はしばらくパソコンに向かった。資料と比べながら、添削を繰り返す。
 漢字一つのミスも許されない。
 私は集中して、仕事に取り組んだ。


「ふう」

 やっと書類ができて、私は背伸びをした。

「あれ、大河原さん、終わった?」
「うん」

 金田君が羨ましそうに私を見て、

「本当、大河原さんは要領がいいなぁ!」
「こーら、金田。無駄口たたいてないで仕事終わらせろ」

 金田君の正面のデスクの益田さんが注意した。私はそんな様子を笑って眺める。
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