マスカケ線に願いを

「それじゃあ、これ印刷してくるから。がんばってね」
「うー」

 頭を抱える金田君を置いて、私は一足先に仕事を終わらせた。


 今日はさほど忙しくなかったおかげで、定時に事務所を出られる。

「大田さん怒ってたわよ、杏奈ちゃんのこと」

 二人で並んでロビーを歩いていると、小夜さんが心配そうにそう言った。
 私はため息をつく。

「やっちゃったんですよ、私。お手洗いで、言いたい事があるなら面と向かって言ってくださいって言っちゃったんです」
「あら……」

 本当に先が思いやられる。

「でも、杏奈ちゃんは強いわね」
「そう、ですか?」

 小夜さんはうなずいた。

「だって、私だったら孤立したら生きていけなさそうだもの。杏奈ちゃん、年下なのにしっかりしてて、本当に見習わなきゃ」
「大河原さん」

 談話しながら二人で事務所を出ようとしたところで、声をかけられた。
 聞きなれた声に振り返れば、案の定そこにいたのはユズで、隣にはコウもいた。

「あっ、蓬弁護士、ひ、久島弁護士も」

 ぺこりと頭を下げた小夜さんの顔が赤い。

「岩山さんも、帰り?」
「はい。杏奈ちゃんと二人で食事しようって……」

 小夜さんの言葉に、私は何かまずいと思った。

「へえ、二人で食事、ねえ」
「ふーん、ちょっとつれないねえ」

 意味深に目を合わせるユズとコウ。
< 115 / 261 >

この作品をシェア

pagetop